中高生向けのキャリア教育に役立つ本として、池上彰監修『なぜ僕らは働くのか』(学研プラス、2020年)が話題です。
将来の目標や夢がよくわからない、悩みを持つ小学校高学年以上なら、ピッタリな内容です。
難しい内容をイラストでわかりやすく簡潔にまとめているので、読書嫌いの子供にもおすすめ。
キャリア教育に本書がピッタリな理由、おすすめの使い方、あわせて読みたい本を紹介します。
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『なぜ僕らは働くのか』がおすすめの理由6選
働き続ける理由が書いてある
まだ中高生にとって「働いている自分」は、イメージできないものです。
僕が子供のころも、今の自分は想像できていませんでした。
「働く」とは、お金をもらって、だれかの役に立つこと。
働いている大人が、何に「やりがい」を感じているかインタビューも短くまとめられています。
仕事は楽しいことばかりじゃなく、失敗やつらい経験も多く、投げ出したいと思うことも。
でも、仕事を続けている理由は、自分の仕事が成功して、人に認められたからです。
そんな時、つらい経験もプロとしてのスキルアップにつながっていたと実感できます。
中高生なら、勉強や部活動で似た体験をしているのではないでしょうか?
毎日厳しい練習をして、ミスをしては先生によく怒られたり……。
その分、試合で勝てたときの喜びは、最高のもののはずです。
1つのことを「がんばった」体験があまりない子供には、実感がないかもしれませんが。
学歴と人生の向かい方
学校の勉強が苦手な子供は、勉強なんてできればやりたくないと感じています。
僕もそうでしたが、勉強が好きではない大人はたくさんいるはずです。
ですが、子供が勉強しなくてもいい世の中を作ろう、なんて言っている大人は見たことがありません。
大人もより将来の可能性を広げるため、すすんで勉強しているからです。
僕は大学院まで行きましたが、学校より社会に出てから勉強することが多いと感じています。
じゃあ、学校の勉強は役に立たないのか、というと半分正解で半分不正解です。
正解の理由は、学校の勉強が働くための基礎部分になっているから。
僕は人にものごとを教えたり伝えたりする仕事をしているので、国語がすごく役立っています。
(中学・高校のときは、国語が苦手でしたが……)
本書のなかでも、大人が社会で役に立っていると思う教科ランキングが紹介されています。
1位は国語、2位は数学、3位は英語、……という感じでした。
なので、学校の勉強をちゃんとやっている人ほど、社会で活躍できるチャンスが多いのは事実です。
しかしながら、いい大学に行った人ほど、たくさんお金を稼いでいるかは別です!
厳しいですが、親や先生の言われた通り勉強して、いい大学に入っても、精神を病んでニートになってしまう人も少なくありません。
勉強さえしていれば、自分に適した仕事をだれかが与えてくれるわけではないからです。
なかには、地元の国立大学に進学だけさせて、後の人生は知らないという、ダメな先生もかなりいます。
本書ではやんわりオブラートに包んでいますが、大切なのは「自分の人生に責任を持てるのは自分だけだ」と気づくこと、明記しています。
「ふつう」という価値観どおり人生が上手くいっている人は、ほとんどいません。
不登校や引きこもりを経験しても、社会で活躍している人はたくさんいるからです。
「ふつう」は自分じゃないだれかが、あなたに押し付けている価値観に過ぎない、と受け流しましょう。
好きなことの見つけ方
特にがんばったこともないし、勉強も中途半端な子供が、将来に不安を抱えるかもしれません。
「自分で自分の人生を作るんだ、と覚悟」
「人任せにしない生き方で、あなたがどうしたいかを大切にしよう」
そう言われても、仲間がいなければ不安になりますし、正しい決断ができる自信もないですよね。
そんな子供のために、「好きなことを見つける」ヒントが書いてあります。
仕事が上手くいき、幸運に恵まれている人の特徴5つがこちらです。
- 好奇心がある(気になることは調べたり試したりする)
- 柔軟性がある(自分の考えを持ちながら、他人の考えや新しい情報を受け入れる)
- 持続性がある(やり遂げることで、自分にとって意味があったかを判断)
- 楽観性がある(失敗してもクヨクヨしない)
- 冒険心がある(リスクは必ずあるので、恐れすぎない)
だれも知らない新しいことに挑戦するのは、勇気が必要です。
失敗やつらいことを怖がりすぎて、何もしないことが、自分に降りかかる最大の敗北といえます。
気になって始めたことは、興味が多少あっただけでも他の人よりも向いている証拠です。
自分はこんな性格じゃない、自分には向いていない、とすぐにあきらめると幸運をずっと逃してしまいます。
たとえ向いていなことでも、続けるうちに何かしらの新しい発見につながります。
アイドルや声優は目指して頑張ったけど、スターになれなかった人がほとんどですよね。
でもその経験から、今まで自分に見えなかった新しいチャンスを掴んで活躍している人もいます。
衣装デザイン、振り付け、番組制作、メイクアップ、舞台演出、音響監督、などたくさん。
活躍している人もはじめは新人
ライトノベルの主人公は、異世界に転生したらチート級の才能を発揮していますよね。
領主・魔法使い・ギルドの会長・王様など、異世界の住民から尊敬のまなざしを集めています。
しかし、孫正義や豊田章男のような大企業の社長も、新人のころから無敵状態だったでしょうか。
三ツ星レストランのシェフですら、最初はたまごをきれいに割れなかったはずです。
新人の多くは仕事のやり方をまったく知らない状態から始まります。
新人とは、いわばスライムの倒し方もわからないような感じです。
物覚えが悪く、先輩の足を引っ張ったり、毎日上司に怒鳴られたり、気が休まらない日々が続きます。
会社の売上や利益にもほとんど貢献していないので、冷ややかな視線を浴びます。
周りの同期と比べて、どうして自分だけ仕事がうまくできないのか落ち込むこともあります。
これらは僕も経験したことです。
しかし仕事に慣れてくれば、お客さんにありがとうと言われたり、身近な先輩に認められたりします。
本書のなかでは、食品会社の営業部で働くCさんの1年目から7年目に大きな仕事を任されるまでのことが書いてあります。
「最初はつらかった仕事も、頑張ってやっていたらいつのまにか楽しくなっていた、世の中にはそんな人がたくさんいます」
とのことです。
コミュニケーション能力
僕も引っ込み思案で、おしゃべりはあまり得意ではありません。
企業が学生に最も求めている能力が、コミュニケーション能力です。
中高生は、コミュ力が高い人といえば、陽キャでグループの中心にいる人をイメージするのではないでしょうか。
実はぜんぜん違います。
これは僕の個人的な感想ですが。
企業の本音は、仕事を早く覚えて、上司の意図をくみ取って、積極的に行動ができる人と、邪推してみます。
しかし会社に気を使いすぎるだけでは、あなたにはまったくメリットがありません。
会社の奴隷になる必要はないのです。
幼い子供がいる社員は、会社に無理を言って休まなければならない場面もあります。
会社が受け取りやすい形で、あなたのわがままを通す力量もコミュニケーション能力に含まれます。
良いガマンと悪いガマンの違い
本書のよいところは、良いガマンと悪いガマンの違いが書いてあるところです。
これは現在の中高生にも、すぐに役立つ話ですね。
社会で活躍できる人になるには、苦しいことつらいことをに耐えて、1つの仕事を続けることは不可欠です。
その道のスペシャリスト、プロフェッショナルになれば、高い報酬や地位を得られます。
しかしながら、多すぎる理不尽なことをガマンすれば、メンタルをやられてしまいます。
うつ病など診断されたら、体調が元に戻るまでかなりの時間がかかります。
ブラック企業につぶされないためには、悪いガマンをしない戦略も必要です。
悪いガマンの例
- 悪質なイジメ、パワハラ
- 長時間労働
- 長年働いても自分のやりたいことと違う
- 周囲の人と価値観が合わない
- 法令違反の仕事をさせられる……など
イジメなどはボイスレコーダーで録音したうえで、労基(労働基準監督署)に訴えるなどができます。
あるいは転職活動を始めて、再就職先を決めてから、元の会社を辞めるのも手です。
誤解してほしくないのは、働くことは会社にあなたの人生を任せることではない、ということです。
人生に責任を持てるのは自分だけなので、自分にあったキャリアは他の場所でも築くことができます。
ただし、ゲームのガチャ機能と現実社会は違い、前職は消せないので、リセマラをやりすぎると、再就職で信用をなくします。
『なぜ僕らは働くのか』の使い方
『なぜ僕らは働くのか』おすすめの理由を6つ紹介しました。
紹介にあたり、僕は本書から特に子供と話し合ってほしいテーマに絞って取り上げました。
お気づきでしょうが、大人向けのビジネス本や自己啓発本のエッセンスを、子供向けにかみ砕いた内容です。
子供本人が本書を読むだけでも価値はありますが、もっと有効な使い方をご紹介します。
テーマを決めて話し合う
本書は章立てが6章、テーマが23個あります。
働くことのよい点と悪い点の両方が、2020年現在にあった観点で書かれています。
僕はおすすめの理由に6種類のテーマをピックアップしました。
将来に不安を抱える中高生が、考えて欲しい順に並べています。
好きなことや将来の目標を見つけるのは、勇気がいりますし、なかなか子供1人では決められないかもしれません。
大人には大人の価値観があって、すぐに結論を言いたいと思うかもしれません。
しかし大人は自分の価値観を押し付けず、子供が今何を思っているのか引き出してください。
子供のなかの不安な感情を整理して、子供自身で答えを見つけるために本書は役立つと考えています。
テーマを1つ決めて、子供と話し合う、そうすることで意外な本音を発見できるかもしれません。
将来の夢はすぐに見つからない
本書をサッと一読しただけでは、将来の夢はすぐに見つからないでしょう。
子供本人が何か考えて答えを出すことですので、時間がかかります。
幸運に恵まれた人の5つの特徴が実践できている人は、大人でもほとんどいないのではないでしょうか。
子供の生きてきた時間が短い分、「挑戦しないことが最大の失敗」と言われても実感を持ちづらいです。
大人が答えを急いで出したがると、かえって子供の思考を阻んでしまいます。
子供は親よりも確実に長く生きますし、より先の現在の大人が想像できない時代を生きます。
子供の自立を促すためには、あなたの価値観の限界を踏まえ、新しい変化にポジティブになれているでしょうか。
大人自身、新しく始めたことはあきらめずに続けられているでしょうか。
なので本書のテーマにそっての話し合いは、将来の進路決定までには、何十回、何百回とするかもしれません。
「自分探し」でなく「自分発見」
本書をテーマに話し合いをするのかで、自分なんてちっぽけでつまらないと、子供が自分を卑下してしまうことを発言するかもしれません。
「いまのあなたが自分の価値を低く見積もってしまうと、未来のあなたは輝けません。」
この言葉を強調します。
「どうせ無理、やっても無駄」、何もしないうちから勝手に思い込んでしまっていないでしょうか。
また本書は大昔に流行った「自分探し」を促してはいません。
殻に閉じこもって、何もかも怖がっていては、自分の輝ける場所は見つかりません。
新しいことに挑戦して、さまざまな人と関わりを持って、はじめて自分の「好きなこと」を発見できるのです。
キャリア教育は学歴の価値が下がった現代で、子供が将来輝ける(満足して働ける)場所をいっしょに見つけるプロセスなのです。
大人ができることは、この3点だけです。
- 子供の本音を引き出す
- 子供に有益な体験談や情報を与える
- 明らかに間違った考え方は、本当に正しいか考え直させる
決して子供の意思を、大人の手中でコントロールしようなんて考えないでください。
「悪運は他人のせい」はやめる
間違った考え方の1例を紹介します。
自分は一切悪くないのに、過剰なノルマを押し付けられたり、いじめの標的にされたり、あるかもしれません。
「アイツのせいで、自分はひどい目に遭っている!」
そう感じることがありますし、そう考えると楽です。
この考え方は一見正しくても、大人としては「間違った考え方」です。
ブラック企業で上司からのパワハラに苦しんで退職に追い込まれたとします。
確かに悪いのは会社ですし、裁判で慰謝料を請求できる場合もあります。
しかし会社が慰謝料を支払うのは1回だけで、生涯にわたってお金を払い続けるわけではありません。
あなたは一生残る傷を負ったとしてもです。
いくらこの社会が間違っていると叫んだところで、あなたの人生は好転するでしょうか。
残酷ですか、社会も会社もあなたの人生に責任を負いませんし、あなたの人生はあなただけのものです。
むしろブラック企業のことは無視して、あなたが新たに活躍できる場所を見つけるほうが得です。
確かに求人雑誌やハロワの求人票では、ブラック企業を見抜くことができません。
しかしほんの一例ですが、ブラック企業を見抜く方法があります。
- 『会社四季報』の「疑義注記」
- 企業のIR情報や官報で財務を調べる
- 銀行員向けの『業種別審査事典』(図書館にあります)……など
これら企業にお金を貸す側の情報を分析すれば、健全な商売で好調を維持している企業を見つけられます。
他者に責任転嫁する暇があれば、自分の人生を好転させるチャンスに時間をさくのが賢明です。
『なぜ僕らは働くのか』と合わせて読みたい本
『なぜ僕らは働くのか』は、進路決定や社会人としての心構えが記されています。
しかし、具体的な業界・業種・年収などの情報は皆無です。
そこで紹介したい本がこちらです。
世の中にどんな仕事があり、収入がどのくらいか、中高生には想像が難しいです。
各職業の特徴・収入など細かく紹介されています。
ただ収入は実際とはズレがあったり、 その職業に就くための進路は書かれていなかったり、など欠点もあります。
ある職業に興味を持ち、どんな人がどんなふうに働いているのか、さらに調べてみるようにしてください。
池上彰監修『なぜ僕たちは働くのか』(学研プラス)はこちらです。
キャリア教育において、ようやく本格的な本が出版されました。
村上龍『13歳のハローワーク』もベストセラーになりましたが、キャリア教育という言葉だけが独り歩きしていました。
これから大人になって幸せな人生を築くため、「知ってほしい大人のリアル」というのがうまく簡潔にまとめられなかったのです。
僕が社会に出た2009年は、昭和型の「いい大学からいい会社」の図式が崩れた頃でした。
90年代末から、就職氷河期からの公務員志向が熱を帯び、大学の同級生もあまり民間に就職しませんでした。
そんなこんなで社会にうまく馴染めなかった人は、ぜんぜん珍しくなかったのです。
いじめ、不登校、引きこもり、ニートなど、僕が中高大の時代に社会的な話題になりました。
僕もこの10年あまり胸を張れる生き方をしてきたわけではありません。
しかし、現在はインターネットという新しい武器があり、質の高い情報を簡単に手に入れられる時代です。
すべての読者の皆様に、新しい武器を駆使して、自分だけの将来を獲得してほしいと願います。